橘美彩
坂口恭平日記
4月、恋人と初めての旅行。タイトルの坂口恭平さんの展示を観に熊本へ行った。
着く直前まで気づかなかったけれど、美術館はホテル日航熊本に併設されていて、そこはもう7年前くらい?某アーティストのスタイリストアシスタントとして来た時に控室として使ったホテルだった。控室の窓から熊本城を見たこととか、アーティストの滞在が周りにバレないように偽名で呼んでいたこととか(フェス会場の近くのホテルで控室を取ることは多々あり、アーティストの控え室の前をファンの子が通り過ぎる、なんてこともあってすごい並行世界だなあと思っていた)、控室のカードキー持ったまま違うタクシー乗っちゃって血の気がひいたこととかを思い出した。こうやってピンポイントで同じ場所に戻ってくるのはなんだか不思議な縁を感じる。

展示会場は回遊出来るようになっていて、行ったり来たり、もう一周してみたりと、当日中は何度でも入れるということも含め、坂口さんの気前の良さが全面に現れていた。もう何もかも一貫して自由で、生きていること自体がアートで速すぎて他人が口を挟む隙が無い。私も大体の口出し(親身な助言はこれの限りではない)に「うるせえな」って思ってる方なので、速く走れる方法を見つけよう、賛成!と思った。
恋人といると一人で観るよりも集中出来るから不思議だ。何年も見失っていた「今」にいることを、私はこの半年足らずですんなり取り戻した。一人でいると予定を詰め込みすぎるし、なんだかいつも先のことを考えてソワソワしてしまう。感じたことのなかった安心感は今後の作品づくりと人生にどんな景色をもたらしてくれるだろうか。

坂口さんの作品は赤裸々で瑞々しくて好きだ。絵を飾りたいと思ったから自分で描いた、という始まりのきっかけにも共感。私もなんでも自分で作ろうとする方で家に迎えたい作品って実は少ない。売れる為に描いたものは多分自分にも描けるから(それはそれ相応の努力はいるだろうけど)ときめかないんだよなあ。見たいのは技術とか正解じゃないものね。
いくつか坂口さんのおすすめのお店を周った中で、橙書店が特に素晴らしかった。お店のどこに立っても居心地が良くて、小さなお店を持つことの楽しさを教えてくれるような場所。二日目に色々あってこの人生で食べたまずいものベスト3に入る腐る5秒前みたいな海鮮丼を無言で完食したお人好しの私たちは、橙書店に逃げ込み、ケーキとアイスとコーヒーでなんとか持ち直した。お土産に買った店主 田尻久子さんの「みぎわに立って」はなんだか毎日ちょっとずつ読みたい本。本に流れている時間に、こちらの時間を合わせたくなるのだ。ああ、橙書店が近所にあったらなあ。
そういえば帰りに空港でひっそりと置かれていて気になったこっぱ餅がお取り寄せしたいレベルの美味しさで、お土産屋さんはこういうものをもっと打ち出したら良いのになあ~と思った。熊本に親戚がいる先輩も知らなかったのはなんでなの~