橘美彩
ガリは賽の目
この夏は保存食をたくさん仕込んだ。
らっきょう、梅干し、その副産物のゆかり、梅酢で漬けた紅生姜、梅ジュース、みょうがの甘酢漬け、そして賽の目のガリ。
東京で勤めていた時、2年くらいほぼ毎日終電まで働いていた。そんな疲れた夜、よく会長が企画室にやって来てはしつこく飲みに誘ってくるのだった。「もう諦めて飲みに行きましょう」。本当にしつこく、終わるまで待っていることもあれば、一旦1人でお店に行って電話でリベンジしてくることもあった。(居留守もしていた笑)
それでも「どうしても行けないんです…」と断り続けた日には、会長がその日1人で行っていた鮨屋から出前を届けてくれたこともあった。先輩達と作業台に高級鮨を広げて立ったまま食べたのは良い思い出。会長は人間臭くて粋な人だった。(ご健在です)
そんな鮨屋、行ける時はよく連れて行ってもらっていたのだけれど、そこでの思い出の味がタイトルのガリ。散々美味しい高級鮨を食べさせてもらっておきながら思い出の味がガリで申し訳ない。正直どれも美味しかったことは憶えているけれど、どのネタがと言われると詳細には思い出せない。しかし賽の目に切られたガリの味は未だに詳細に思い出せるのだ。大好きだった恋人との思い出も、ファストフードのドリンクとか、焼きそばとか、こんな感じのものだったりしませんか。
そして今夏、新生姜の甘酢漬けのレシピを見つけた時に、「あああ!あのガリの味をもう一度味わえるかも!!」と思ってしまいました。賽の目に切って甘酢に漬けて超〜簡単に出来てしまった高級店のガリ。いや、食べ比べたらそりゃ劣るかもしれないけれど、やっぱり重要なのはこの切り方なのでしょうね。それらしくなりました。薄切りのガリはなんだかぎゅむぎゅむしていて好きになれず、次の鮨を食べる前の業務的お付き合いと思っていた私に革命を起こしてくれた賽の目型。しゃくっと歯触りが良い。
「みんながガリを食べまくるから困る」と言っていた大将はお元気かしら。

保存食たちはお弁当にとってもよく役立ってくれました。ちょこちょこいろんな味が詰められて嬉しかったな。